事業開発プロの新たなキャリア|2025.10.04
トヨタの新規事業の全貌とは?未来を変えるプロジェクト実例まとめ
自動車産業が「100年に一度の変革期」にある中、日本の巨大企業であるトヨタは、既存の枠組みを超えた新規事業を次々と展開しています。...
Magazine
事業開発プロの新たなキャリア
2025.10.02
大規模企業で新規事業の立ち上げを担う担当者の方々へ。
既存のビジネスモデルが成熟する中、次なる成長の柱を生み出すことは、単なるオプションではなく、企業の存在意義(レゾンデートル)を再構築するための必須戦略となっています。
特にインフラ業界に属し、広大な顧客基盤を持つ関西電力(KEPCO)が、どのようにして既存事業の安定性を保ちながら、本業級に育つ新規事業を「仕組み」として生み出しているのか。
本記事では、KEPCOの成功を支える戦略的な「両利き経営」の思想、具体的な「起業チャレンジ制度」の仕組み、そして提案が通る「厳格な評価軸」を詳細に解説します。これらの要素は、貴社が新規事業の成功確率を高め、組織の挑戦意欲を引き出すための実践的なヒントとなるでしょう。
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それでは、本章をチェックください。
目次
電力事業を核とする関西電力のようなインフラ企業は、電力小売りの自由化や脱炭素化の進展という構造変化に直面しています。この中で新規事業は、単なる収益の多角化に留まらず、将来の成長の柱を育成するための重要な戦略と位置づけられています。
関西電力の新規事業の目標は、既存のインフラ管理・運用ノウハウや広範な顧客基盤を活かしつつ、地域社会の課題解決に貢献する事業ドメインを探索することです。具体的には、インフラメンテナンス、地域活性化、そして保有するスマートメーターデータなどを活用した新サービスの創出に焦点を当てています。
これは、財務的リターンだけでなく、地域社会との関係性を強化し、規制環境の変化に対応するための非財務価値の最大化を目指すものです。新規事業は、既存事業の論理に縛られないニッチな市場からスタートしつつも、最終的には本業に匹敵する社会的インパクトを持つことが期待されています。
関西電力が新規事業を成功させるための主要な武器は、その無形資産を最大限に活用する能力と、自前主義からの脱却です。
既存の電力インフラ事業者としての高い信頼性や、長年にわたり培ってきたインフラ管理・運用に関する深いノウハウは、新規事業を開始する上での強固な土台となります。特に、広範な顧客ネットワークや膨大なデータ(メーターデータなど)は、他社には真似できない競争優位性の源泉です。
しかし、大規模な組織が新規市場で求められる「速さ(Speed to Market)」を実現することは容易ではありません。そこで重要となるのが、外部のスタートアップやベンチャーサポートに特化したコンサルティングファームとの「組む力」です。外部の専門的な知見やノウハウを取り込むことで、事業検証の速度を劇的に向上させ、新規事業を成功に導くための必須条件としています。
新規事業を成功させ、本業級に成長させるためには、既存事業の効率化・深掘り(Exploitation)と、将来のための探索(Exploration)という、相反する活動を組織的に両立させる両利き経営(Ambidexterity)の思想が不可欠です。
関西電力の組織設計は、この両利き経営を組織のガバナンスレベルで実現しています。既存事業は徹底的な効率化と深掘り(Exploitation)を進める一方、非本業の新規事業については、「イノベーション推進本部」の設置や「起業チャレンジ制度」の導入により、独立した資金とルールに基づいて探索(Exploration)を推進しています。
また、応募事業を「フリー型」(非連続な探索)と「テーマ型」(既存資産を活用する近接領域の深掘り・応用)の二種類に分けることで、戦略的なポートフォリオ管理を行っています。これにより、短期的な収益貢献と、長期的な非連続成長へのリスク投資のバランスを、一つの制度内で調整しているのです。
関西電力の「起業チャレンジ制度」は、新規事業を偶発的な成功に頼るのではなく、「仕組み」として継続的に生み出し、規律ある検証を経て事業化するためのガバナンス構造を提供しています。
制度への応募資格は、「当社およびグループ会社に3年以上勤務する従業員」と定められています。これは、単なるアイデアの募集に留まらず、現場の課題や既存リソースに関する深い洞察を持つ人材に限定することで、アイデアの現実性と実行可能性を高めるための戦略的なフィルタリングとして機能します。
アイデア創出の経路は、「フリー型」(自由な発想に基づく遠隔探索)と、「テーマ型」(グループが保有する技術シーズや遊休経営資源の活用)の二つに分かれます。このハイブリッドな募集形態により、ボトムアップの創意工夫と、経営戦略上の重要な資源活用を促すトップダウンのインセンティブを両立させています。
新規事業の立ち上げは、既存業務の論理や制約に囚われると失敗に終わることが多いため、組織的な「隔離」が必要です。
関西電力は、事業立ち上げの中心的な役割を担う「イノベーション推進本部」への異動や、起業期間中の「出向」という人事措置を取ることで、起業家を既存業務の圧力や本体組織の煩雑な承認プロセスから完全に切り離します。
この独立した組織設計(出島モデル)は、新規事業の立ち上げに専念できる環境を提供するだけでなく、心理的安全性を確保し、失敗を恐れずに迅速な試行錯誤を可能にする文化を醸成する効果があります。迅速な意思決定とアジャイルな検証こそが、不確実性の高い新規事業において成功確率を高めるための鍵となります。
起業チャレンジ制度では、段階的投資(Stage-Gate)の原則に基づき、リスクを最小化しながら事業の確度を高める厳格な審査プロセスが採用されています。
審査に合格した場合、応募者を社長とするベンチャー会社が設立され、事業化へと移行します。特筆すべきは、応募者自身が資本金のうち「100万円以上、株式保有率30%未満」の範囲で希望する額を出資する義務です。これは、起業家がリスクを負い、事業成功への個人的なコミットメント(Skin in the Game)を定量的に保証する仕組みとして機能します。
新規事業を本業級の柱へと成長させるためには、初期の熱量だけでなく、客観的で厳格な評価軸が必要です。KEPCOの制度に見られる財務目標や規律は、新規事業の成否を分ける普遍的な評価フレームワークを提供しています。
新規事業が解決しようとする課題が、顧客にとって「切実なペイン(Deep Pain Point)」であるかどうかが、最初の重要な基準となります。単に「便利さ」を提供するのではなく、顧客がコストや手間をかけてでも解決したいと願う「不可欠」な解決策を追求することが、早期の市場浸透を可能にします。
関西電力の事業規模目標は、初期フェーズにおいては比較的小さいですが、最終的な評価においては、そのニッチな市場から将来的に本業級に育つための潜在的な市場規模(TAM: Total Addressable Market)の大きさが不可欠となります。提案は、初期の収益性だけでなく、将来のスケール可能性を厳格に分析することが求められます。
新規事業が競争優位性を確立するためには、模倣困難な独自の解決策が必要です。KEPCOのテーマ型応募が既存の技術シーズや遊休経営資源の活用を求めているのは、まさにこの独自性を担保するためです。
関西電力グループが保有する広範なインフラ、顧客データ、規制対応ノウハウといった無形資産を新規事業に組み込むことで、競合他社に対する参入障壁を築き、強固なポジショニングを確立できます。新規事業が既存事業と戦略的な補完関係(シナジー効果)を持つか、あるいは非連続な成長軸となるか(多角化)を明確にすることで、評価軸としての独自性が確立されます。
関西電力の制度における「単年度黒字3年以内、累損解消5年以内」という財務目標は、探索フェーズにある新規事業に対しても、極めて厳格な財務規律を要求しています。これは、市場適合性の証明とコスト効率の早期確立を強く促すための戦略的手段です。
投資判断は段階的に行われます。シード期(FS段階)では、少額の資金で迅速な学習速度と仮説検証を重視しますが、最終的な事業化(アーリー期)では、ユニットエコノミクスが成立し、定められた期限内に収益化が達成できるかという財務的な確度へと評価基準が切り替わります。投資判断のゲートを設けることで、不確実性が高い段階での大規模な資本投下を防ぎ、リスクを管理しているのです。
どんなに優れたアイデアであっても、それを推進するチームの情熱と能力なくして成功はありません。
関西電力の制度では、応募者が自己資金から100万円以上の出資を義務付けられることにより、リーダーのコミットメントレベルを物理的に、かつ定量的に測定しています。この自己出資は、事業への執着心とリスクテイクの意欲を証明するものであり、提案が通るかどうかの重要な指標となります。
また、チームメンバーは、市場の課題を深く分析し、ターゲット顧客と提供方法を明確にし、必要な経営資源の調達計画を立案する能力が不可欠です。KEPCOは、公募等を通じて必要なスタッフを確保する機会を提供するなど、実行チームの能力を組織全体で支援する体制も整備しています。
新規事業推進のための組織設計、すなわち「出島(ラボ)モデル」の運用は、探索と効率化を両立させる両利き経営の核心部分です。
関西電力のイノベーション推進本部や、ベンチャー会社として設立される新規事業部門は、既存組織の複雑な手続きや保守的な文化から隔離された「出島」の役割を果たします。
出島の主な機能は、市場と技術の不確実性を迅速に解消するための探索(Exploration)に特化することです。市場のペインに対するMVPを用いた仮説検証を高速で繰り返し、製品と市場の適合性(P/Sフィット)を確立することに注力します。既存事業が重視する効率性や標準化といった基準から解放されることで、失敗を恐れずに試行錯誤できる環境が提供されます。
新規事業を本体から完全に分離してしまうと、大企業が持つリソース(資本、顧客基盤、ブランド)を活用できず、成功確率が低下します。成功する出島モデルは、密な連携と独立した意思決定のバランスが重要です。
関西電力の仕組みは、起業家を「出向」という形で組織的に切り離しながらも、グループワイドによる支援グループの設置、および事業に必要な土地、設備、知的所有権などが提供されます。これにより、新規事業は本体の信用力や資産を活用しつつ、ベンチャー会社としての独立した法人格を通じて、本体の会議体に縛られない迅速な経営判断を可能にしているのです。
新規事業の立ち上げは、既存業務との兼務では高い確率で失敗します。KEPCOは、起業期間を原則5年間とし、この期間中は「出向」とすることで、起業家とそのチームが事業に完全に専念できる環境を確保しています。この専任化措置は、新規事業成功のための時間的・精神的な資源の集中を可能にする人事戦略です。
また、失敗時のセーフティネットの確保も、チャレンジを促す上で極めて重要です。起業期間終了後の取り扱いとして、原則として出向元に復職することが基本ですが、出向延長や転籍の希望がある場合は、その希望が尊重されます。この「復職保証」は、優秀な人材が新規事業というリスクの高い領域に挑戦しやすくなるための強力なインセンティブとして機能します。
予算の投入も、段階的投資の原則に従います。シード期のFS段階では、学習と検証の自由度を最大化するため、低額ではあるものの裁量の高い資金が投入されます。最終審査を通過し事業化が決定すると、グループ会社からの出資に加え、必要な事業資金の融資が行われます。
このアーリー期への移行において、3年単年度黒字、5年累損解消という財務規律が本格的に適用されます。予算投入の増加に伴い、期待されるリターンと規律の厳格さが増していくプロセスは、リスクを段階的に管理し、投資判断の透明性を高める上で不可欠です。
大規模企業が新規事業で市場を迅速に獲得するためには、外部との協業が必須です。特に、新規市場開拓や多角化戦略を採用する場合、社内には存在しない専門知識や経験が求められます。
関西電力の事例が示すように、外部の専門的なコンサルティングサービスを戦略立案や実行支援に活用することは、社内リソースの限界を補い、事業検証と実行のスピードを加速させるための有効な手段です。ベンチャー企業の支援に特化したコンサルティングファームを活用することで、市場のトレンドや、社内では得難いイノベーション推進のノウハウを迅速に取り込むことが可能となります。
関西電力の事例を自社の新規事業に活かすには、彼らが持つ「仕組み」と「評価軸」を自社の戦略的背景に合わせてカスタマイズし、実務に落とし込むことが重要です。
新規事業担当者が最初にすべきことは、関西電力の成功事例を鵜呑みにするのではなく、自社の経営戦略に基づいた新規事業の役割を明確に定義することです。自社が目指すのが、既存技術の深掘り(Exploitation)なのか、それとも非連続な成長軸の探索(Exploration)なのかを明確にします。
その上で、関西電力の5つの評価基準(市場の切実さ、独自性、財務規律、初期投資の妥当性、チームの能力)を、自社のリスク許容度や資本力、遊休資産の状況に合わせて「言語化」し、「写し」込む作業を行います。特に、KEPCOの厳しい財務目標(3年/5年ルール)は、自社の業種や事業フェーズに合わせて調整すべき最も重要な要素の一つです。この言語化された評価軸が、社内での意思決定と投資判断の客観的な基準となります。
関西電力の半年間のFS期間が示唆するように、新規事業においては、完璧な製品を目指すのではなく、最小限の機能を持つMVP(Minimum Viable Product)を迅速に設計し、顧客の切実なペインを解決できているかを検証するリーンスタートアップのアプローチが不可欠です。
この仮説検証のサイクルを高速で回すためには、検証後の「ふりかえり(Retrospective)」のプロセスを組織に定着させることが必須です。ふりかえりを仕組み化することで、個々の失敗を組織の学習資産に変え、次の検証ステップへの明確なインプットとすることができます。学習速度そのものを高めることが新規事業成功の鍵です。
新規事業の評価は、既存事業のように売上や利益といった後行指標(Laggard Indicators)だけでは不十分です。学習速度や顧客エンゲージメントといった先行指標(Leading Indicators)を重視する必要があります。新規事業のフェーズに応じて、評価するKPIを戦略的に切り替えるフレームワークが必要です。
フェーズ | 主要な目的 | 先行指標(KPI)の例 |
探索/初期検証 | 学習の最大化、課題解決の検証 (P/S Fit) | MVPからの学習速度、MVP利用頻度、顧客インタビュー満足度 |
成長/拡大 | 市場適合の証明、事業の普及 (P/M Fit) | 顧客獲得コスト(CAC)、口コミによる紹介数、解約率(Churn Rate) |
収益化/安定 | スケールと利益の確立 | 売上成長率、営業利益率、KEPCOの目標(3年黒字、5年累損解消) |
初期の探索フェーズでは、検証の量と質をKPIとし、事業が軌道に乗る成長フェーズでは、顧客獲得効率や解約率といったユニットエコノミクス指標に移行します。そして最終的な収益化フェーズで初めて、関西電力が設定するような厳格な財務目標が後行指標として機能するのです。
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貴社が新規事業を成功に導き、第二、第三の事業の柱を確立するためには、戦略的な評価軸と言語化、そしてそれを実行に移すための実務的なサポートが必須です。
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関西電力の新規事業が本業級の成長を見込む背景には、偶然ではなく、組織的に設計された強固な基盤が存在します。
その要諦は、既存事業の効率化と将来への投資を両立させる「両利き経営という戦略的な思想」、段階的な投資と独立性を確保する「起業チャレンジ制度という仕組み」、そして創業者精神(自己出資)と早期の財務規律(3年/5年ルール)を組み込んだ「厳格な評価軸」の三位一体にあります。
新規事業の成功は、これらの複雑な要素を高い規律をもって実行できる組織能力にかかっています。特に、評価軸のカスタマイズ、検証サイクルの高速化、ステージ別KPIの導入は、貴社の成功に不可欠な要素です。
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この記事を執筆した人
長尾 浩平
新規事業創出や事業戦略の専門家として、多様な業界での経験を持つコンサルタント兼起業家。 東京工業大学大学院 生命理工学研究科、および中国・清華大学大学院 化学工学科を卒業。グローバル企業において研究開発、新規事業企画、新市場参入戦略の立案、M&A支援、DXコンサルティング、営業戦略策定など、多岐にわたる業務を担当。業界を横断した豊富な経験を活かし、事業成長と競争力強化を支援する総合コンサルティングを提供。 2024年1月にVANES株式会社を創業し、企業の持続的成長を支援。変化の激しい市場環境において、戦略立案から実行支援まで一貫したアプローチで企業価値の最大化に貢献している。
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